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名古屋地方裁判所 昭和48年(ワ)18号 判決 1978年7月20日

原告 同和株式会社 ほか一名

被告 国 ほか二名

訴訟代理人 高崎武義 竹田盛之輔 ほか二名

主文

一  原告らの被告ら三名に対する被告(名古屋国税局長)が、昭和四六年九月二二日、原告同和株式会社に対する国税滞納処分としてなした、滞納者(債権者)原告同和株式会社の債務者被告破産者大隈潔相続財産破産管財人大畑政盛に有する

1  名古屋高等裁判所昭和二九年(ネ)第二八号所有権移転登記手続請求事件の確定判決に基づく

(一)  損害賠償元本債権金五八八万一、三〇〇円

(二)  右元本債権に対する昭和三一年八月一〇日から昭和三三年四月二五日までの間の年五分の割合による遅延損害金五〇万三、一七三円

2  原告同和株式会社が被告破産者大隈潔破産管財人より受領する右1以外の破産債権及び遅延損害金等の各債権に対する差押のうち、右1(一)を除くその余の各債権に対する差押が無効であることを確認することの訴をいずれも却下する。

二  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一申立

(原告ら)

主位的請求

一  被告ら三名との間において、被告国(名古屋国税局長)が昭和四六年九月二二日原告同和株式会社に対する国税滞納処分としてなした、滞納者(債権者)原告同和株式会社の債務者被告破産者大隈潔相続財産破産管財人大畑政盛に対する

1 名古屋高等裁判所昭和二九年(ネ)第二八号所有権移転登記手続請求事件の確定判決に基づく

(一) 損害賠償元本債権金五八八万一、三〇〇円

(二) 右元本債権に対する昭和三一年八月一〇日から昭和三三年四月二五日までの間の年五分の割合による遅延損害金合計五〇万三、一七三円

2 原告同和株式会社が被告破産者大隈潔破産管財人より受領する右1以外の破産債権及び遅延損害金等の各債権に対する差押のうち、右1(一)を除くその余の各債権に対する差押が無効であることを確認する。

二  被告破産者大隈潔相続財産破産管財人大畑政盛は、

1 原告同和株式会社に対し金五〇万三、一七三円

2 原告高島民江に対し金四〇〇万五、三八四円及び右各金員に対する昭和四七年一二月一九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

(右各請求の訴は、原告らが次項三の各請求と交換的に一旦取下げたが、前記被告管財人において右取下に同意しない。)

三  被告大畑政盛及び被告国は各自

1 原告同和株式会社に対し金五〇万三、一七三円

2 原告高島民江に対し金四〇〇万五、三八四円

及び右各金員に対する昭和四七年一二月一九日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

四  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言。

予備的請求

(原告同和株式会社は、原告同和株式会社の被告破産者大隈潔相続財産破産管財人大畑政盛に対する従前の請求に追加して、新たに予備的請求として次のとおりの申立をなした。)

一  被告破産者大隈潔相続財産破産管財人大畑政盛は、原告同和株式会社に対し金四〇〇万円及びこれに対する昭和四七年七月六日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告破産者大隈潔相続財産破産管財人大畑政盛の負担とする。

との判決並びに仮執行の宣言

(被告破産者大隈潔相続財産破産管財人大畑政盛及び被告大畑政盛)

主位的請求について

一  本案前の申立

1 原告らの訴をいずれも却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

二  本案に対する申立

1 原告らの請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

予備的請求について

一  訴訟上の申立

1 訴の予備的追加的変更は許さない旨の裁判。

2 原告同和株式会社の予備的請求にかかる訴を却下する。

との申立。

二  本案に対する申立

1 原告同和株式会社の予備的請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告同和株式会社の負担とする。

との判決。

(被告国)

一  本案前の申立

1 原告らの被告国に対する訴をいずれも却下する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決。

二  本案に対する申立

1 原告らの被告国に対する、不法行為、不当利得を原因とする金員支払請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告らの負担とする。

との判決並びに仮執行免脱の宣言。

第二主張

(原告ら)

請求原因

一  (主位的請求)

1 原告同和株式会社(以下単に原告会社という。)は名古屋地方裁判所に大隈潔に対する破産宣告の申立をなした(名古屋地方裁判所昭和三二年(フ)第一二二号大隈潔破産事件。以下本件破産事件という。)ところ、同裁判所は昭和三三年四月二六日右大隈潔を破産者とする旨の決定をなし、被告大畑政盛をその破産管財人に選任したが、その後、大隈潔は本件破産事件係属中に死亡した。

2 原告会社は、昭和三三年五月一三日本件破産事件において、名古屋高等裁判所昭和二九年(ネ)第二八号所有権移転登記手続請求事件の執行力ある確定判決に基づく損害賠償債権を破産債権として、その元本債権金五八八万一、三〇〇円(以下、本件元本債権という。)及びこれに対する昭和三一年八年一〇日から右破産宣告の前日である同三三年四月二五日に至るまで年五分の割合による遅延損害金五〇万三、一七三円(以下、第一次損害金債権という。)の届出をなした。しかして、右届出債権はすべて昭和三三年五月二三日本件破産事件債権表第一号の破産債権として確定した。

3(一) しかるところ、被告国(名古屋国税局長)は、昭和四六年九月二二日原告会社に対する国税滞納処分として、滞納者(債権者)を原告会社、債務者を被告破産者大隈潔相続財産破産管財人大畑政盛(以下、単に被告管財人ともいう。)とし、差押債権を「債権者(滞納者)が債務者に対して有する下記破産債権の支払請求権およびこの差押えの前日までの遅延損害金(今後の遅延損害金を含む。)の支払請求権

(1) 昭和三二年(フ)第一二二号大隈潔破産事件

破産管財人 大畑政盛

(2) 昭和二九年(ネ)第二八号所有権移転登記手続等請求事件の判決による損害賠償金五、八八一、三〇〇円および昭和三一年八月一〇日より昭和三三年四月二五日(破産宣告の前日)までの年五分の割合による遅延損害金五〇万三、一七三円。

(3) 債権者(滞納者)が破産管財人大畑政盛より受領する上記以外の破産債権および遅延損害金等。」

と表示して債権差押をなし、同日被告管財人に対してその旨記載した債権差押通知書を送達した(以下この差押を本件差押という。)。

(二) したがつて、本件差押により本件元本債権及び第一次損害金債権が差押えられたわけであるが、第一次損害金債権に対する差押は後記6の理由により無効である。

4 その後、原告会社は、昭和四七年七月五日本件破産事件において、破産債権として、本件元本債権に対する破産宣告の日である昭和三三年四月二六日から前記債権差押の前日昭和四六年九月二一日に至るまで年五分の割合による遅延損害金四〇〇万五、三八四円(以下第二次損害金債権という。)及び本件元本債権に対する右債権差押の当日昭和四六年九月二二日から昭和四七年七月五日に至るまで年五分の割合による遅延損害金一六万七、八八〇円(以下第三次損害金という。)、合計金四一七万三、二六四円の届出をなした。しかして、右届出債権は、すべて昭和四七年七月一九日、本件破産事件債権表第六号の劣後破産債権として確定した。

5 被告管財人は、本件破産手続において、昭和四七年六月一三日配当表(一般債権の部、第一号破産債権配当表)を、同年七月二〇日配当表(劣後債権の部、第六号劣後破産債権配当表)をそれぞれ作成し、原告会社の前記確定破産債権については、いずれも全額配当されることとなつた。

6(一) ところで、本件差押のうち、第一次損害金債権に対する差押は、国税徴収法五二条二項の規定により無効である。

すなわち、同条項は、「差押の効力は、差押財産から生ずる法定果実に及ばない。ただし、債権を差し押えた場合における差押後の利息については、この限りでない。」旨規定しているから、元本債権に対する差押の効力が差押前に元本債権から生じた法定果実に及ばないことは明らかである。しかして、本件の第一次損害金債権に対する差押のように、元本債権と同時に、その差押前に元本債権から生じた法定果実を元本債権とは別個に差押えた場合に、右法定果実に対する差押を有効とすると、右の規定を容易に潜脱することができることになるから、このような債権差押は違法であり、効力がないと解すべきである。したがつて、本件差押のうち、第一次損害金債権に対する差押は無効である。

(二)(1) また、箪二次第三次各損害金債権に対する国税滞納処分としての差押は存在せず、仮に差押があつたとしても違法無効である。

被告らは、本件差押における前記3の(一)の債権差押通知書(3)の「原告会社が破産管財人大畑政盛から受領する上記以外の破産債権」、或は同通知書冒頭部分の「(今後の遅延損害金を含む。)」等の記載をもつて第二次、第三次損害金債権も差押えたというが、国税滞納処分として債権差押をなすについては、債権の種類、金額を明確にして差押債権を特定しなければならない(国税徴収法施行令二七条三号)のにもかかわらず、本件差押の差押通知書には、差押債権としてこれら第二次損害金債権等特定するに足りる何らの記載がないから前記債権差押通知書をもつて第二次、第三)次損害金債権を差押えたということはできず、仮に右通知書をもつて差押えたものとしても、右差押は不適法であり、これを有効と解することはできない。

(2) 仮に、本件差押により右第二次、第三次損害金債権が差押えられたものとしても、

(ア) 本件差押当時、右第二次損害金債権等は本件破産事件手続において未届、未確定の破産債権であつて、原告会社は当時これを届出る意思を有していなかつたから、本件差押による第二次損害金債権等に対する差押は無効である。

(イ) 仮に右(ア)の主張が認められないとしても、少なくとも本件差押の前日までの利息である第二次損害金債権四〇〇万五、三八四円に対する差押は、前記(一)と同一の理由により無効である。

7 原告会社は、昭和四七年一一年二四日被告管財人に対して有している第二次損害金債権についての本件破産手続における配当金請求権金四〇〇万五、三八四円を原告高島民江に譲渡し、同日その旨を被告管財人に通知した。

8 ところが、被告管財人は、昭和四七年一二月一八日までに、本件差押をなした被告国(名古屋国税局長)に対し、本件破産事件の配当として、本件元本債権、第一次損害金債権、第二次損害金債権及び第三次損害金債権の各債権額と同額の各配当金を支払い、被告国は右配当金をすべて、被告国の原告会社に対する滞納国税債権に充当してしまつた。

9 しかしながら、前記のとおり、第二次損害金債権に対する国税滞納処分としての差押は存在していないし、仮に、本件差押により右債権が差押えられたとしても、その差押は無効であり、また、本件差押による第一次損害金債権に対する差押も無効であるから、被告管財人は、依然本件破産事件の配当として、原告会社に対し金五〇万三、一七三円(第一次損害金債権に対する配当金)、原告高島民江に対し金四〇〇万五、三八四円(第二次損害金債権に対する配当金)の各支払義務がある。

10 また、被告管財人の被告国に対する前記8の配当金支払いは次のとおり、被告大畑政盛及び被告国の原告会社及び原告高島民江に対する不法行為を構成する。すなわち、

(一) 前記のとおり、第二次損害金債権に対する国税滞納処分としての差押は存在していないし、仮に、本件差押により右債権が差押えられたとしても、その差押は無効であり、また、本件差押による第一次損害金債権に対する差押は無効であるにもかかわらず、被告大畑政盛は、破産者大隈潔相続財産の破産管財人たる地位を利用し、被告国の機関である名古屋国税局職員と共謀のうえ、本件差押により第一次損害金債権及び第二次損害金債権に対する国税滞納処分としての差抑は適法有効になされていると称して、右各債権に対する配当金をすべて被告国に支払つてしまつた。このため、第一次損害金債権に対する配当金受領権者で、ある原告会社、第二次損害金債権に対する配当金受領権者である原告高島民江は、いずれも被告管財人から右配当金を事実上受領することができなくなつた。

したがつて、被告大畑政盛及び被告国は、右共同不法行為に基づく損害賠償として、各自、原告会社に対し右第一次損害金の配当金相当額金五〇万三、一七三円、原告高島民江に対し第二次損害金の同相当額金四〇〇万五、三八四円の支払義務がある。

(二) 仮に、右(一)の不法行為の主張が認められないとしても、

(1) 被告国は、もと別紙物件目録記載の土地建物(以下、本件物件という。)を所有していたところ、大隈潔は、被告国から本件物件の払下げを受けてこれを転売し、その差額を利得しようと企図した。しかして、右破産者は、本件物件の払下げを受ける前に、原告会社との間で、同会社に対し本件物件を金一七〇万円で売渡す旨の売買契約を締結し、その頃原告会社より右売買代金の内金一二〇万円を受取つた。その後、破産者大隈潔は被告国から本件物件の払下げを受け、その旨の所有権移転登記も経由した。しかるに、破産者大隈潔は、原告会社に対して本件物件の所有権移転登記手続をなさなかつた。そこで、原告会社は破産者大隈潔に対して、前記の売買残代金の支払いと引換えに本件物件の所有権移転登記手続をなすことを訴求した。右訴訟の第一審裁判所は原告会社の請求を全面的に認める判決を言渡したが、右判決に対しては破産者大隈潔から控訴の申立がなされた。ところが、右訴訟の二審弁論中に、破産者大隈潔は、本件物件を訴外岩佐善一に売渡し、既に所有権移転登記も経由している事実が判明した。そこで、第二審裁判所(名古屋高等裁判所)は、昭和三一年八月一〇日原判決を変更し、破産者大隈潔は原告会社に対して前記売買契約の債務不履行による損害賠償として金五八八万一、三〇〇円を支払えとの判決を言渡し、右判決は確定した(この確定判決に基づく損害賠償債権が本件元本債権である。)

(2) ところが、大隈潔は無産者であつたので原告会社は本件元本債権の支払いを受けることができなかつた。そこで、原告会社は名古屋地方裁判所に対し、大隈潔に係る破産宣告の申立をなした(本件破産事件)ところ、同裁判所は、前記のとおり昭和三三年四月二六日大隈潔を破産者とする旨の決定をなし、被告大隈政盛が、その破産符財人に選任された。

(3) 被告管財人は、前記の大隈潔、岩佐善一間の本件物件に係る売買契約につき否認権を行使し、右岩佐を被告として訴を提起(名占屋地方裁判所昭和二四年(ワ)第一、一〇二号)したが、第一審名古屋地方裁判所は被告管財人敗訴の判決を言渡した.被告管財人は右判決について、名古屋高等裁判所に控訴申立(名古屋高等裁判所昭和三九年(ネ)第四六号)をなしたが、原告会社は右控訴事件において、弁護士鈴木匡らを訴訟代理人として委任したうえ、被告管財人の補助参加人として訴訟に参加した。その結果、第二審名古屋高等裁判所は、昭和四二年四月二八日原判決を取消したうえ被告管財人勝訴の判決を言渡し、その後、右判決に対し右岩佐から上告の申立があつたが、最高裁判所は、昭和四三年一月一九日右上告を棄却する旨の判決を言渡し、名古屋高等裁判所の言渡した前記判決が確定した。

これにより、本件物件は本件破産事件の破産財団に復帰したが、本件物件は本件破産事件破産財団の殆んど唯一の価値ある財産であつた。したがつて、本件物件の本件破産事件破産財団への復帰がなければ、本件破産手続は財団不足により破産廃止とならざるを得なかつだものである。

(4) 原告会社は前記の補助参加事件等につき、その訴訟代理人らに手数料、報酬金として合計金四〇〇万円を支払う旨約束していたが、その後、原告会社は国税滞納処分によりその殆んどの資産を差押えられ、前記の報酬金等を支払うことができなくなつてしまつたので、右報酬金等の支払いに充てるため前記のとおり昭和四七年七月五日本件破産事件において第二次損害金債権及び第三次損害金債権の届出をした。

(5) ところが、前記の補助参加箏件等において、原行会社の委任した訴訟代理人らの活動がなければ、本件破産争件における否認権行使は効を奏せず、破産債権はいずれも殆んど満足を得られなかつたという前記事情があつたのにもかかわらず、被告大畑政盛は破産者大隈潔相続財崖破産管財人たる地位を利用して被告国の機関である名古屋国税局職員と共謀のうえ、本件元木債権、第一次損害金債権、第二次損害金債権及び第三次損害金債権に対する右各債権と同額の配当金をすべて被告国に支払つてしまつた。

(6) このため、原告会社は、被告管財人から受領する予定であつた配当金をもつて、前記の補助参加事件等の訴訟代理人らに対する報酬金等の支払に充てることができなくなつた。したがつて、被告大畑政盛及び前記名古屋国税局職員の前記所為は、少くも、第一次損害金債権及び第二次損害金債権に対する各配当金債権の侵害であるというべきである。

よつて、被告大畑政盛及び被告国は、右共同不法行為に基づく損害賠償として、各自、第一次損害金債権の配当金の受領権者である原告会社に対し右配当金相当額金五〇万三、一七三円、第二次損害金債権の配当金受領権者である原告高島民江に対し右配当金相当額金四〇〇万五、三八四円の各支払義務がある。

11 また、前記のとおり、第二次損害金債権に対する国税滞納処分としての差押は存在していないし、仮に本件差押により右債権が差押えられたとしても、右差押は無効であり、また、本件差押による第一次損害金債権に対する差押は無効であつて、被告国は、右各債権の配当金を受領する何らの権限がないのにもかかわらず、これを被告管財人から受領してしまつた。このため、第一次損害金債権の配当金の受領権者である原告会社は、右配当金の支払を事実上受けられなくなり、右配当金と同額、すなわち金五〇万三、一七三円の損失を受け、また、第二次損害金債権の配当金の受領権者である原告高島民江は、右配当金の支払を事実上受けられなくなり、右配当金と同額、すなわち金四〇〇万五、三八四円の損失を受けた。

よつて、被告国は、不当利得による利得の償還として、原告会社に対し金五〇万三、一七三円、原告高島民江に対し金四〇〇万五、三八四円を支払う義務がある。

また、被苫大畑政盛が破産者大隈潔相続財産破産管財人として被告国に右各配当金を任意弁済しなければ、被告国の不当利得は成立しなかつたのであるから、被告大畑政盛は、被告国と同じく不当利得の責任を負うべきである。したがつて、被告大畑政盛もまた、不当利得による利得の償還として、原告会社に対し金五〇万三、一七三円、原告高島民江に対し金四〇〇万五、三八四円を支払う義務がある。(被告大畑政盛に対する不当利得償還の請求は、原告らにおいて取下げる旨申立てたが、同被告においてこれに同意しない。)

12 以上の次第であるから、原告らは、被告ら三名に対し本件差押のうち本件元本債権を除くその余の債権に対する差押が無効であることの確認を求める(この訴を以下本件確認の訴ともいう。)とともに、原告会社は、被告管財人に対しては本件破産事件における配当金として、被告大畑政盛及び被告国に対しては不法行為ないしは不当利得に基づきいずれも金五〇万三、一七三円及びこれに対する本件破産事件手続における配当金支払完了日の翌日である昭和四七年一二月一九日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求め、また、原告高島民江は、被告管財人に対しては本件破産事件における配当金として、被告大畑政盛及び被告国に対しては不法行為ないしは不当利得に基づき、いずれも金四〇〇万五、三八四円及びこれに対する本件破産事件手続における配当金支払完了日の翌日である昭和四七年一二月一九日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  (予備的請求)

1 前項一10(二)記載の経緯のとおり、被告管財人は、大隈潔、訴外岩佐善一間の本件物件に係る売買契約につき右岩佐を被告として否認の訴を提起(名古屋地方裁判所昭和二四年(ワ)第一、一〇二号)し、第一審名古屋地方裁判所において被告管財人敗訴の判決言渡があつたあと、控訴審の名古屋高等裁判所(同庁昭和三九年(ネ)第四六号)において原告会社が被告管財人の補助参加人として参加した結果、同裁判所において原判決取消、被告管財人勝訴の判決言渡があり、その後の上告審最高裁判所においても昭和四三年一月一九日上告棄却の判決言渡があつて、右名古屋高等裁判所の判決が確定し、これにより、本件物件は本件破産事件破産財団に復帰したのであるが、本件物件は本件破産事件破産財団の殆んど唯一の価値ある財産であつた。したがつて、本件物件の破産事件破産財団への復帰がなければ、本件破産手続は財団不足により破産廃止とならざるを得なかつたものである。

2 ところで、原告会社は、前記の補助参加事件等においてその訴訟代理人鈴木匡らに手数料、報酬金として合計金四〇〇万円を支払う旨約束していたところ、前記否認の訴の補助参加において原告会社が委任した右訴訟代理人らの活動がなければ、本件物件が本件破産事件破産財団に復帰するということはなかつたのであるから、原告会社がその訴訟代理人に支払いを約束した手数料、報酬金は本件破産事件において、財団債権に属する共益裁判費用と解すべきであり、原告会社から被告管財人に対して償還を請求することができるものと解すべきである。

3 よつて、原告会社は、被告管財人に対し、本件破産事件における共益費として金四〇〇万円及びこれに対する弁済期後である昭和四七年七月六日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告管財人及び被告大畑政盛)

主位的請求について

一  本案前の申立の理由

1 原告高島民江の被告管財人に対する配当金支払請求の訴は不適法なものとして却下されるべきである。

(一) 原告高島民江は、本訴において、既に確定している本件破産事件の第六号劣後破産債権配当表の一部(第二次損害金債権に対する配当金の部分)が無効であることを前提として本件破産事件における配当金の支払いを求めているが、このような訴は不適法なものとして許されない。すなわち、確定した破産債権の配当表は判決と同一の既判力を生ずるのであつて、破産管財人は右の確定した配当表に基づいて配当すべき義務があり、かつ、その配当によつて免責されるのであり、かかる既判力を有する配当表の取消、変更は再審手続によりこれをなすほかないのであるから、右手続によらないで、配当表の一部が無効であることを前提として右配当金の支払いを求めることは許されない。

(二) 破産事件の配当手続に参加し、配当金の支払いを請求することのできる者は、確定した破産債権表に記載された破産債権者に限られているところ、原告高島民江は本件破産事件の債権表及び配当表のいずれにも記載されていないから、本件破産事件において配当金支払請求を有していない。それゆえ、原告高島は本訴における原告適格を有していないこととなるから、原告高島民江の被告管財人に対する訴は不適法なものとして却下されるべきである。

2 原告会社の被告管財人に対する配当金支払請求の訴もまた不適法なものとして却下されるべきである。

被告管財人は、昭和四七年一二月一八日、被告国の取立に応じて、第一次損害金債権に対する配当金五〇万三、一七三円(本件破産事件の第一号破産債権配当表の一部)を支払つたのであるが、これについて、原告会社は、本件差押の効力は第一次損害金債権に及んでいないのであるから、前記の配当金支払は無効であつて、被告管財人は、依然として、原告会社に対して前記配当金を支払う義務があると主張する。

しかしながら、被告管財人としては、本件差押の効力について調査する権限も責任もない。それゆえ、被告管財人は、被告国が国税徴収法に基づき、本件差押により差押えられた第一次損害金債権に対する配当金を取立ててきたときに、その支払いを拒むことはできない筋合である。したがつて、被告管財人は、右取立権を有する被告国に対して右配当金を支払つた以上、原告会社に対しても右配当金の支払いにつき免責される。

以上の次第で、原告会社は、本件破産事件の配当手続完結後、それとは別に本件差押の瑕疵を主張して被告管財人に前記の配当金の支払いを請求することはできないから、右訴は不適法である。

3 原告らの被告大畑政鯛に対する不法行為、不当利得を原因とする金員支払請求にかかる訴もまた不適法なものとして却下されるべきである。

原告らは本件破産事件の破炭管財事務について破産管財人に非違の行為があるとして不法行為ないし不当利得に基づき右の各請求をなすのであるから、破産管財人を被告とすべきであり、破産管財人に就任している個人たる大畑政盛には被告適格はない。

二  請求原因に対する認否及び主張

1 請求原因一1、2の事実は認める。

2 同一3(一)の事実は認める。

同一、3(二)の事実のうち、本件差押により本件元本債権及び第一次損害金債権が差押えられたとの事実は認め、その余は争う。なお、本件差押によつて、第二次、第三次各損害金債権もまた差押えられている。

3 同一、4、5の事実は認める。

4(一) 同一、6(一)の主張は争う。

本件差押により、第一次損害金債権は有効に差押えられている。

(二) 同一、6(二)の主張は争う。

本件差押によつて、前記のとおり第二次損害金債権及び第三次損害金債権もまた有効に差押えられている。

5 同一、7の事実は否認する。

6 同一、8の事実は認める。

7 同一、9の主張は争う。

被告管財人としては、本件差押の効力について調査する権限も責任もない。それゆえ被告管財人は、被告国が本件差押により差押えた第一次損害金債権及び第二次損害金債権の配当金を取立ててきたときには、その支払いを拒むことはできない。したがつて、被告管財人は、被告国に対して右配当金を支払つた以上、原告らに対しても、右配当金の支払いにつき免責される。

8 同一、10の不法行為の成立の主張は争う。

9 同一、11の不当利得の成立の主張は争う。

予備的請求について

一  訴訟上の申立の理由

1 原告会社が被告管財人に対して共益裁判費用金四〇〇万円とその付帯金員の支払を求める訴の予備的追加的変更は、訴の変更の要件を欠く違法なものであつて許されない。

すなわち、右訴の変更は従前の請求に対し、基礎を変更するも

のであり、仮に、そうでないとしても、本件の訴訟手続を著しく遅滞させる。

2 本件については、口頭弁論期日において二度にわたり準備手続に附され、その間、四年余りの間に二八回の準備手続期日が重ねられ、昭和五一年一〇月七日、二回めの準備手続が終結された。

原告会社が右二回めの準備手続終結後に予備的請求として申立てた新請求及びこれにかかる主張は民事訴訟法一三九条の規定する時機に遅れた攻撃防禦方法として許されないのみならず、同法二五五条の規定する準備手続終結の効果としても許されないものである。

したがつて、原告会社の予備的請求の訴はこの点においても不適法なものとして却下されるべきである。

二  請求原因に対する認否

1 請求原因二、1の事実は認める。

2 同二、2の事実及び主張は否認ないしは争う。

(被告国)

一  本案前の申立の理由

1 原告らの、本件差押のうち、本件元本債権を除くその余の債権に対する差押が無効であることの確認を求める訴(本件確認の訴)は不適法なものとして却下されるべきである。

すなわち、

(一) 原告らは被告国外二名に対し、国税滞納処分としての差押の無効確認を求めているが、右差押処分は行政庁たる名古屋国税局長が行なつたものであるところ、行政事件訴訟法三八条、一一条は、行政処分の無効確認の訴は当該処分をなした行政庁を被告とすべき旨を規定するから、本件確認の訴については、被告国には被告適格がない。

(二) また、行政事件訴訟法三六条は、行政処分の無効確認の訴は、当該処分の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴によつて目的を達することができないものに限つて認められる旨規定するところ、原告らの終局の月的は、第一次損害金債権及び第二次損害金債権に対する配当金又は配当金相当額の損害金の給付を受けることであるから、右目的は、原告らが確認を求めている国税滞納処分としての差押の無効を前提として、直接右配当金等の支払いを求めることによつて達成することができるのであるから、被告国に対する本件確認の訴は不適法なものとして却下されるべきである。

2 原告らの被告国に対する、不法行為、不当利得を原因とする訴はいずれも、また、不適当なものとして却下されるべきである。

原告らの被告国に対する本件確認の訴が不適法であることは右1記載のとおりであるが、行政事件訴訟に本件のごとき不法行為、不当利得を原因とするいわゆる関連請求に係る訴を併合する場合、関連請求に係る訴が適法であるためには併合される行政事件訴訟が適法であつて本案訴訟に親しむことが要件とされる。したがつて、不適法な本件確認の訴に併合した不法行為、不当利得を原因とする各訴もまた不適法なものとして却下されるべきである。

二  請求原因に対する認否及び主張

1 請求原因一、1、2の事実は認める。

2 同一、3(一)の事実は認める。

同一、3(二)の事実のうち、本件差押により本件元本債権及び第一次損害金債権が差押えられたとの事実は認め、その余の事実は否認する。

なお、本件差押により、第二次、第三次各損害金債権もまた差押えられている。

3 同一4、5の事実は認める。

4(一) 同一6(一)の主張は争う。

本件差押により、第一次損害金債権は有効に差押えられている。

(二) 同一6(二)の主張は争う。

本件差押により、第二次損害金債権及び第三次損害金債権もまた有効に差押えられている。

5 同一7の事実は不知。

6 同一8の事実は認める。

7 同一10の不法行為の成立の主張は争う。

8 同一11の不当利得の成立の主張は争う。

9 積極的主張

第一次ないし第三次損害金債権はいずれも本件差押により適法有効に差押えられた。

(一) 国税徴収法五二条二項は、元本債権を差押えた場合にその差押の効力は差押後に生ずる損害金債権に及ぶが、差押前に発生した損害金債権に及ばない旨規定するが、元本債権の差押をした場合、その効力が差押前に発生した利息債権に及ばないということと当該利息債権の差押が可能かどうかということは全く別異の事柄であつて、当該利息債権を元本債権とは別個独立の債権として差押えることは許されるものと解すべきである。

しかして、被告国(名古屋国税局長)は、本件元本債権の差押とは別に、差押前に発生した損害金債権(第一次及び第二次損害金債権)を「……およびこの差押えの前日までの遅延損害金の支払請求権。」等と表示してこれを差押えたのであり、第一次及び第二次損害金債権は本件差押以前に本件元本債権から発生した遅延損害金であるから、本件差押による第一次及び第二次損害金債権に対する差押は無効であるとの原告らの主張は理由がない。

(二) 破産債権の行使は破産手続によらなければならない(破産法一六条)から、その差押をするにあたつては、当該破産債権について破産法所定の債権届出がなされたか否かにかかわりなく、すべて破産管財人を第三債務者として債権差押通知書を送達しなければならないが、右手続が履践されれば、破産債権の届出の有無にかかわらず、当該破産債権を差押えることはできるのである。

そうとすれば本件差押当時、第二次及び第三次損害金債権が本件破産手続において未届であつたことを理由に第二次及び第三次損害金債権に対する差押が無効であるという原告らの主張は理由がない。

第三証拠 <省略>

理由

第一主位的請求に対する本案前の申立について

一  本件確認の訴について

原告らは被告ら(被告管財人、被告大畑政盛及び被告国)に対して、本件差押のうち、本件元本債権を除くその余の債権に対する差押が無効であることの確認を求めている。

ところが、本件差押は、被告国の行政機関である名古屋国税局長が原告会社に対し行政処分たる国税滞納処分としてなしたものであることは明らかであるから、その無効の確認を求める本件確認の訴は、行政事件訴訟における抗告訴訟として、行政事件訴訟法三八条、一一条の規定により行政庁たる名古屋国税局長を被告として提起すべきものであつて、被告国についてはもちろん、被告管財人、同大畑についても被告適格はない。原告らの被告らに対する本件確認の訴はいずれもこの点において不適法として却下を免れない。

二  原告高島民江の被告管財人に対する配当金(第二次損害金四〇〇万五、三八四円)支払請求にかかる訴について

1  被告管財人は、原告高島民江は本訴において、既に確定している本件破産事件の第六号劣後破産債権配当表の一部が無効であることを前提として、本件破産事件の右配当金の支払いを求めているのであるから、このような訴は不適法なものとして許されない旨主張する。

しかしながら、破産事件における配当金支払請求権は、一般の債権譲渡の手続により譲渡することができるものであり、原告高島民江は、本件破産事件において前記配当表が確定したことを前提にし、右配当表に記載された配当金の支払請求権を譲受けたとして第二次損害金の配当金の支払を請求しているものであることがその主張から明らかであるから、被告管財人の前記主張はその前提を欠き、採用することができない。

2  また、被告管財人は、原告高島民江は、本件破産事件の確定した債権表、配当表のいずれにも記載がないから右の配当金支払請求の訴において原告適格を有していないとも主張する。

しかし、財産上の給付の訴においては、自己の給付請求権を主張する原告が財産上の管理処分権を喪失していない限り原告適格を有するのであり、右被告主張のような破産手続における債権表、配当表に記載があるか否かは、帰するところ右給付請求権の存否の問題であつて、原告適格に何ら影響するところはなく、前示のように第二次損害金の配当金支払請求権を譲受けたとしてその請求権を主張する同原告に原告適格があることは明らかである、したがつて、この点の被告管財人の主張も採用することができない。

三  原告会社の被告管財人に対する配当金(第一次損害金五〇万三、一七三円)支払請求にかかる訴について

被告管財人は、破産管財人がその破産手続における確定した配当表に基づいて配当し、差押にかかる破産債権の取立に応じて支払つた以上、右破産債権については免責されるのであるから、原告会社の右配当金請求の訴は不適法である旨主張する。

しかし、原告会社は右給付の訴においては、被告破産管財人がその職能上管理し、支払を実行すべき配当金について、被告管財人が本来無効な差押に基づく他の差押債権者の取立に応じて支払つたと主張し、確定した債権表、配当表に記載された正当な破産債権者である原告会社に右配当金の支払を求めていることは明らかであり、かかる場合、任意の配当金交付(支払)を拒む被告管財人に対し右の配当金の支払を求める訴訟上の請求をすることは当然許されるものと解すべきである。右被告主張の免責はひつきよう右配当金請求権の存否にかかわる事項であり、当事者適格や訴訟要件に影響するところはなく、右訴を右主張のごとき理由で不適法ということはできない。

四  原告らの被告大畑政盛に対する不法行為、不当利得を原因とする金員支払請求にかかる訴について

被缶大畑政盛は、本訴不法行為ないし不当利得を原因とする金員支払請求にかかる各訴において被告大畑政盛は被告適格を有していないから右訴はいずれも却下されるべきである旨主張する。

しかし、原告らは、給付の訴である本訴不法行為ないし不当利得を原因とする金員支払請求の訴において、被告大畑政盛に右金員支払義務があると主張しているのであるからこれを主張する原告らに原告適格があることは明らかであり、右被告大畑政盛の主張は当を得ない。

五  原告らの被告国に対する不法行為、不当利得を原因とする金員支払請求の訴について

被告国は、原告らの被告国に対する不法行為ないし不当利得を原因とする金員支払請求の各訴は、本件確認の訴に、関連請求にかかる訴として併合されているものであるところ、本件確認の訴が不適法なものである以上、右不法行為ないし不当利得を原因とする金員支払請求にかかる各訴もまた不適法として却下されるべきである旨主張する。

しかし、被告国に対する不法行為ないし不当利得を原因とする金員支払の各請求が本件確認の訴と関連請求にかかる訴訟であつて、基本になる本件確認の訴が不適法なものとして却下されるべきものとしても、それをもつて直ちに右関連請求が不適法になるのではなく、右関連請求自体が係属中の裁判所の管轄に属する場合これが適法に係属する訴訟として審判の目的となることは明らかであり、右各請求が不法行為地、義務履行地を裁判籍として当裁判所の管轄に属することはその主張に照らして明白である、それゆえ、この点に関する被告国の主張は採用することができない。

第二主位的請求について

一  原告らの被告管財人に対する各配当金支払請求について

1  請求原因一123(一)、458の各事実は当事者間に争いがない。

同一3(二)の事実のうち、本件差押により、本件元本債権及び第一次損害金債権が差押えられた事実(その差押の効力については後述する。)もまた当事者間に争いがない。

3  そこで、本件差押により差押えられた債権の範囲について検討する。

(一) まず、本件差押により、本件元本債権及び第一次損害金債権が差押えられたことは、その効力いかんについてはきておき、当事者間に争いがないこと前記1のとおりである。

(二) つぎに、本件差押により第二次損害金債権が差押えられたかどうかについて検討する。

前示争いのない請求原因一の3(一)の事実と<証拠省略>によると、本件差押に当たり名古屋国税局長は第三者債務者たる被告管財人に債権差押通知書を送達したが、同通知書には差押債権の表示として、

「債権者(滞納者)が債務者に対して有する下記破産債権の支払い請求権およびこの差押の前日までの遅延損害金(今後の遅延損害金を含む)の支払請求権

1 昭和32年(フ)第122号大隈潔破産事件

破産管財人 大畑政盛

2 昭和29年(ネ)第28号所有権移転登記手続等請求事件の判決による損害賠償金¥5,881,300-および昭和31年8月10日より昭和33年4月25日(破産決定の前日)までの年5分の割合による遅延損害金¥503,173-

3 債権者(滞納者)が破産管財人大畑政盛より受領する上記以外の破産債権および遅延損害金」との記載がなされていることが認められる。

しかして、右記載内容に徴するとき、本件差押によつて、差押の対象とした債権は、少くとも、本件元本債権とこれに対する昭和三一年八月一〇日から本件差押の前日(昭和四六年九月二一日)までの年五分の割合による遅延損害金(従つて第二次損害金債権も含む。)であることは、右記載から明らかであるというべきである。

もつとも、国税徴収法施行令二七条は、債権差押通知書には差押える債権の種類及び額を記載しなければならない旨規定しているが、前記債権差押通知書には差押えるべき債権の種類は記載してあるものの、遅延損害金の一部である第二次損害金債権についての具体的な金額の記載はない。しかしながら、右規定の趣旨は、差押えるべき債権をできるだけ特定させようとするものであるところ、前記通知書の記載によれば、本件差押債権の目的たる右の遅延損害金債権はその具体的な金額を一義的に計算することができるのであるから、結局差押債権の特定に欠くるところはないというべきであり、本件債権差押通知書の記載は、困税徴収法施行令二七条所定の要件に欠くるところはないと解すべきである。

したがつて、本件差押により、第二次損害金債権もまた差押えられているものというべきである。

3  つぎに、本件差押による第一次損害金債権及び第二次損害金債権に対する差押の効力の有無について判断する。

(一) まず、原告らは、本件差押による第一次損害金債権に対する差押は、同債権が本件差押前に本件元本債権から生じた法定果実であるから国税徴収法五二条二項の規定により無効である旨主張する。

しかし、同条項は、債権の差押にあつては、元本債権を差押えただけでは、当然にはその差押の効力が差押前に既に生れている法定果実、すなわち利息、遅延損害金に及ばない旨を定めているにすぎないのであつて、右の元本債権差押前にすでに生じた利息、遅延損害金を元本債権と別個独立の債権として差押えることは何ら右条項の禁ずるところではないと解すべきである。したがつて、前記のとおり、第一次損害金債権が、本件元本債権とは別個の債権として差押えられている以上、それが、本件差押以前に生じた法定果実であるとの理由をもつて第一次損害金債権に対する差押が違法、無効であるいうことはできない。

これに反する原告らの主張は独自の見解であつて、とうてい採用することができない。

(二)(ア) つぎに、原告らは、本件差押当時第二次損害金債権は本件破産手続において未届、未確定の破産債権であつて、原告会社は当時、これを届出る意思もなかつたのであるから、本件差押による第二次損害金債権に対する差押は無効である旨主張する。

しかしながら、破産者の債権、債務その他の財産に対する管理、処分権は、破産宣告以後破産管財人に帰属するのであるから、破産手続において破産債権者の債権が未届、未確定であるか否か、債権者に届出意思があるか否かにかかわらず、右の破産債権が存在する以上、破産債権者に対して債権を有する他の債権者が、右破産債権を差押えることができることはいうまでもなく、この場合の第三債務者に対する差押の通知は、破産者ではなく、破産管財人に対してなすべきこともまた自明の理である。してみれば、前示のとおり滞納処分である本件差押において、第二次損害金債権がその目的債権として表示されている以上、これが適法有効に差押えられ、右の債権差押によつて名古屋国税局長がその取立権を取得したものといわざるを得ない。

したがつてこの点の原告らの主張は理由がなく、採用することができない。

(イ) さらに、原告らは、第二次損害金債権に対する差押は、同債権が本件差押前に本件元本債権から生じた遅延損害金債権であるから、前示国税徴収法五二条二項の規定により無効である旨主張する。

しかし、原告らの右主張の理由のないことは前記Hに説示のとおりである。

(ウ) 結局、第二次損害金債権に対する差押も、本件差押によつて、適法有効になされたものというべきである。

4  以上の次第で、第一次損害金債権及び第二次損害金債権は、昭和四六年九月二二日、本件差押により適法有効に差押えられたことは明らかであり、被告管財人が、昭和四七年一二月一八日までに、名古屋国税局長に対し、本件差押に応じて、第一次損害金債権及び第二次損害金債権の各債権額と同額の各配当金を支払い、同局長は、右配当金をすべて被告国の原告会社に対する滞納国税債権に充当したことは前記1のとおり当事者間に争いがない。

したがつて、本件差押による第一次損害金債権及び第二次損害金債権に対する差押が無効であり、それゆえに、被告管財人の名古屋国税局長に対する前記の配当金の支払が無効であることを前提とする原告会社の第一次損害金債権、及び原告高島民江の第二次損害金債権に対する各配当金支払の請求はその理由のないことは明らかであるから、被告管財人に対する右各請求はいずれも棄却すべきである。

二  原告らの被告大畑及び被告国に対する不法行為に基づく損害賠償請求について

1  はじめに、原告らの請求原因10(一)の不法行為の主張について判断する。

原告らは、本件差押による第一次損害金債権及び第二次損害金債権に対する差押が違法、無効であることを前提とし、それゆえに、被告管財人の被告国に対する右各債権に対する配当金支払も違法なものとなる旨主張する。

本件差押による第一次損害金債権及び第二次損害金債権に対する差押が適法有効であることはすでに前記一23に説示のとおりであるから、右差押により、名古屋国税局長は右各債権の取立権を取得することになり、右各債権に対する配当金もまた取立てることができることはいうまでもなく右名古屋国税局長及び同局職員並びに破産管財人である被告大畑政盛が右配当金の取立及び支払をするについて何らの違法がないと認めざるを得ないから原告らの請求原因10(一)の不法行為の主張はとうてい採用することができない。

2  つぎに、原告らの請求原因10(二)の不法行為の主張について判断するに、原告会社がその主張する補助参加事件において訴訟代理人らに支払を約束し、同人らが取得することとなつた手数料報酬金債権は、結局は、右訴訟代理人らの原告会社に対する債権にほかならず、原告会社が予備的請求において主張する共益裁判費用に該当すると解する余地もないのであるから、仮に原告会社が、第一次損害金債権及び第二次損害金債権に対する配当金を被告管財人から受領したときは、右手数料、報酬金の支払に充てようと考えていたとしても、被告管財人の名古屋国税局長に対する前記配当金支払について何ら違法な点がない以上、原告ら主張の債権侵害の不法行為が成立する余地はなく、原告らの右主張も採用することはできない。

3  結局、原告らの被告大畑及び被告国に対する不法行為に基づく損害賠償請求はいずれも理由がないものとして棄却すべきである。

三  原告らの被告大畑及び被告国に対する不当利得に基づく償還請求について、

原告らは、被告管財人の名古屋国税局長に対する、第一次損害金債権及び第二次損害金債権に対する配当金支払が何ら法律上の原因なくしてなされていることを前提として、本訴不当利得の主張をしているが、右配当金支払が適法になされたこと前記二1説示のとおりであるから、原告らの右主張はその前提においてすでに理由がなく採用することができない。

原告らの右不当利得に基づく償還請求はいずれも理由がないものとして棄却すべきである。

第三原告会社の被告管財人に対する訴の予備的追加的変更申立について

原告会社の訴の予備的追加的変更申立について、その当否を按ずるに、

原告会礼の被告管財人に対する従前の請求は、本件差押の一部(第一次損害金債権及び第二次損害金債権に対する差押)についての差押無効確認の訴と右差押無効を前提とする第一次損害金債権に対する配当金支払請求であるところ、新請求は、被告管財人の訴外岩佐善一に対する否認権行使訴訟において原告会社が被告管財人の補助参加人として訴訟参加をするにつき、原告会社がその依頼した訴訟代理人らに支払を約束した手数料報酬金が本件破産事件の財団債権に属する共益裁判費用であるとして、原告会社から被告管財人に対して、その償還を請求するというものであり、右各請求は請求の基礎を異にするものというべきであるから、右訴の変更はこの点において不当として許さないこととする。

第四結論

以上の次第であるから、原告らの本訴各請求のうち、被告ら三名に対する本件確認の訴は不適法なものとして却下し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、(原告会社の被告管財人に対する予備的請求は前示のとおり本判決理由中において不許とした。)訴訟費用の負担につき、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 深田源次 大橋英夫 久江孝二)

(別紙)

物件目録

名古屋市中区丸の内三丁目五一番

一 宅地 二七七・六八平万メートル

同所同番地所在

家屋番号五二一番

一 木造瓦葺平屋建居宅

床面積 一一七・三五平方メートル

(以上)

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